割り勘って、言えなかった
言えなかったのは相手のせいじゃない。言わないと決めたのも、勝手に損した気になったのも、全部こっちだった。
伝票が来たとき、相手はスマホを見ていた。
見ていた、というか、見るともなく画面をつけていた。
あれはたぶん、こっちの出方を待っていたんだと思う。今なら分かる。
そのとき俺が言ったのは、これでした。
「あ、大丈夫です、ここは」
大丈夫じゃなかった。八千円でした。
帰り道でずっと考えていたこと
その日の帰り、ずっと考えていたのは金額のことじゃなくて、
「なんで自分はあれを言ったんだろう」ということでした。
割り勘でいいですか、と言うのが怖かった。
言った瞬間に、この人の中で自分の評価が下がる気がした。
ケチだと思われたくなかった。
つまり払ったんじゃなくて、買ったんですよね。
「ケチだと思われない」という状態を、八千円で。
しばらく腹を立てていた時期がある
正直に書くと、この時期けっこう荒れていました。
こっちは店を探して、予約して、金も出して。
相手はただ来て、座って、帰るだけ。
なんだこれ、と思っていた。ずっと思っていた。
その頃、同じようなことを言っている人の投稿ばかり見ていて、
「そうだよな」「みんな同じだよな」と思うのは、正直かなり気持ちよかったです。
ただ、半年くらいそれをやって気づいたんですけど、
その間、自分の状況は一ミリも変わっていませんでした。
腹が立つのは本当だった。でも、腹を立てる先を間違えていた。
相手は「奢れ」とは一言も言っていない。言わないと決めたのは、こっちだった。
一回だけ、数えてみた
感覚だけで話しても仕方ないので、去年一年、初めて会った日のぶんだけ数えてみたことがあります。
十二回で、八万四千円。
そのうち割り勘にできたのは、二回だけでした。
数えて何か解決したかというと、別にしていません。
ただ、「なんとなく損している気がする」が「十万近く使っている」に変わったのは大きかった。
なんとなくの不満は相手に向くけど、金額になると自分の設計の話になる。
今やっていること
奢るのをやめた、という話ではないです。
そこは相手と場合による。
変えたのは一箇所だけで、金額の話を、その場の空気に持ち込むのをやめました。
一軒目を、三千円台で収まる店にする。
「軽く一杯だけ」と、誘う段階で言っておく。
それ以上は、そのとき決める。
伝票が来たときに考えるから、あんなに苦しかった。
会う前に決めておけば、あの十秒は来ない。
言えなかった自分を責めるより、言わなくて済む場所を選ぶ方が、たぶん早いです。