帰り道 デートの帰り道に読む
場面

話が続かなかった、あの一時間

マッチングアプリの会話が続かないのは、質問が足りないからじゃなかった。質問しかしていなかったからだった。

「お仕事、なにされてるんですか」

これを、その日二回聞きました。
一回目は最初の五分で、二回目は、たぶん四十分くらい経ったところで。

相手は「さっき言いましたけど」とは言わなかったです。
もう一回、同じ説明をしてくれました。
その優しさが、逆にしんどかった。

質問が足りなかったわけじゃない

会話が続かなかった日って、あとから「話題を用意していけばよかった」と思いがちなんですけど、
あの日に足りなかったのは、たぶん話題じゃなかったです。

俺、その一時間ずっと質問しかしていませんでした。

出身は。休みの日は。趣味は。仕事は。
面接みたいだった、と今なら分かる。

質問を返されても、「そうですね、まあ普通です」みたいな答え方をして、
すぐまた次の質問に行っていた。

自分の話をするのが怖かったんだと思います。
つまらないと思われるのが嫌で、当たり障りのないことしか言わなかった。

その結果、一時間ずっと当たり障りのない空気でした。当然です。

沈黙が来たときにやったこと

途中で二回、完全に止まった時間がありました。

そのとき俺がやったのは、スマホを見ることでした。
見る必要なんてなかったのに、間が持たなくて。

あれ、たぶんいちばんまずかったです。
沈黙を「なかったこと」にしようとすると、余計に大きくなる。

一回だけ、うまくいった日のこと

比較として書くと、別の日にわりと話せた回があって、
そのとき何が違ったかというと、最初の十分で自分の失敗談を一個出したことでした。

前に行った店で頼み方を間違えて大量に来た、みたいな、どうでもいい話です。

そこから相手も自分の話をしてくれるようになった。
先に一枚めくると、向こうもめくってくれる。

質問は、相手にボールを渡す行為だと思っていたんですが、
実際には自分は何も出さずに情報だけもらう行為にもなり得るんですよね。

今やっていること

会う前に、自分の話を三つ用意していくようにしました。

うまい話じゃなくていい。むしろ、しょうもない失敗の方がいい。
質問を三つ用意するより、こっちの方が効きました。

沈黙が来たら、今は「あ、ちょっと黙りますね」と言うことにしています。
言ってしまうと、なぜか怖くなくなる。

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